TD4追随録
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伝説的な4bitCPU"TD4"の材料を揃えよう -TD4追随録 1-

伝説的な4bitCPU"TD4"の材料を揃えよう -TD4追随録 1-

2025年12月14日

 本連載では、2003年に発行された「IC10個のお手軽CPU設計超入門 初歩のデジタル回路動作の基本原理と製作 CPUの創りかた(渡波 郁/となみ かおる 著)」(以後、「CPUの創りかた」と表記)で紹介されているCPUを実際に製作していきます。

「CPUの創りかた」とTD4について

 本記事を読んでいる方にわざわざ説明する必要は無いかもしれませんが、「CPUの創りかた」と本連載で製作するモノについて説明しておきます。

 「CPUの創りかた」は書名の通り、単純な電子回路とICから実物のCPUを作る方法・原理を320ページ足らずで見事に説明した名著です。2024年2月時点で第35版が発行されており、この数字からも如何に長い間読まれている名著であるかが伺えるかと思います。電子工作や計算機に興味がある方であれば「表紙にメイドさんが載っている本」として強く印象に残っている方も多いはずです。

 そんな「CPUの創りかた」で製作するCPUは「とりあえず動作するだけの4bitCPU」から取った"TD4"という名前がついています(p.136)。TD4の製作過程で、CPUひいては電子計算機の基本動作原理を説明しているというワケです。

 著者の渡波氏は本書の読者を高校生~成人だとしておりますが(p.5)、実物のTD4を作るつもりなら「電子工作初級~中級者」が対象となると言ってよいでしょう。というのも、本書でははんだづけを始めとした加工方法や部品の入手方法などのノウハウについては一切書かれていません。

 TD4製作に挑むなら「ユニバーサル基板上でのはんだ付け」か「プリント基板用データの制作~依頼」ができる技量が必要となります。これは電子工作の当たり前ですが、どちらを取ってもそれなりの訓練・学習が必要です。実際に手を動かすものなのでチェック以外でAIに頼ることができません。また、回路図はあるものの具体的な実装回路についてはあまり触れられておらず配置や電源などの周辺回路は自分で考える必要があります。

 これらはまだ良いですが、2025年現在TD4を作るうえで最大の問題は「代替部品を探して配線する」という工程が入ることです。これを解決するのが本記事の主題です。

従来のTD4を構成するICの内訳

 以下が書籍に記された従来のTD4に登場するロジックICとその役割になります(p.275~277)。

IC 役割 使用箇所 個数
74HC10 3入力NAND-3回路 CPU 1個
74HC14 シュミットトリガNOT-6回路 クロック/リセット 1個
74HC32 2入力OR-6回路 CPU 1個
74HC74 FF-2回路 CPU 1個
74HC153 4chマルチプレクサ CPU 2個
74HC154 4-to-16デコーダ ROM 1個
74HC161 4bitバイナリカウンタ CPU 4個
74HC283 4bit全加算器 CPU 1個
74HC540 NOT-8回路 ROM 1個

 「CPUの創りかた」が執筆された2003年時点ですら、「74HCシリーズ」のICで手に入らないものが出てきているとの記述があり(p.195)、上記の時点で代替品が含まれています。また、原書で使用しているものは東芝製のものが多いと推測されます。これを現在手に入れることは難しくなっており、多くのパーツを他社の同等品でそろえる必要があります。

 つまり、2025年時点で上記のパーツ一式を丸々揃えるのは非常に難易度が高いです。

 かと言って、気落ちする必要はあまりありません。TD4は有名なことも相まって、多くの先駆者が製作に挑んだ足跡を見つけることができます。本書を読んでいくと分かりますが、TD4を構成しているのは基本的な論理回路です。このため、一部の部品を代替したものが多く出回っております。中身を正確に理解し、情報をかき集めれば同じ動作をするものは製作できるということです。

従来ICの在庫状況

 ほとんどが入手困難かというと案外そうでもありません。以下の表は筆者がかき集めたロジックICの販売元を示したものです。

IC 秋月電子(秋葉原店) 千石電商(秋葉原本店) 共立エレショップ(通販)
74HC10 × × ○(品番複数有り)
74HC14
74HC32 △(在庫わずか)
74HC74
74HC153 ×
74HC154 × × ×
74HC161 ×(表面実装の在庫わずか) ×
74HC283 ×
74HC540 ×

 上記の表からも分かる通り、千石電商・共立エレショップを始めとした各種通販を使って取り寄せれば全てのロジックICを確保できる可能性は高いです。ただし、その中でも74HC154だけは入手難易度が段違いに高いように思われます。記述しておりませんが、他の販売元としては樫木総業株式会社・マルツオンラインなども候補に挙がります。

各ICの代替品

 入手が困難となりつつあるICを代替する事例を調べたので、それらを列挙していきます。

番号 従来IC 役割 代替品の組見合わせ 代替品の役割
74HC10 3入力NAND-3回路 74HC00 1個 + 74HC14 1個 2入力NAND-4回路 + NOT-6回路
74HC154 4-to-16デコーダ 74LS138 2個 3-to-8デコーダ
74HC161 4bitバイナリカウンタ 74HC163 1個 4bitバイナリカウンタ
74HC283 4bit全加算器 74HC32 1個 + 74HC08 2個 + 74HC86 2個 4連1bit全加算器
74HC540 NOT-8回路 74HC04 2個 NOT-6回路

 各項目の詳細については以下の通りです。

①: 74HC10(3入力NAND-3回路)の代替

 2入力NANDが4回路入った74HC00と何かしらのNOT回路(74HC04/NOT-6回路など)を用いれば、3入力NANDを実現することが可能です。具体的には、2入力NANDの入力をA・Bとし、こいつの出力先をNOTの入力に接続します。するとA・BのAND回路ができます。こいつとCを2つめの2入力NANDの入力とすれば3入力NANDを実現できます$^{(1)}$。

②: 74HC154(4-to-16デコーダ)の代替

 74HC154はほぼほぼ絶版になっていると考えたほうが良いでしょう。一応樫木総業株式会社で販売していることを確認しましたが、1個1,485円という値段です(2025年12月9日確認)$^{(2)}$。

 これは3-to-8デコーダを2つ連結すれば同じ機能を実現可能です。74HC138Aを2個、もしくは74LS138を2個で置き換える事例を確認しています$^{(1)(3)(4)}$。こちらであれば秋月電子でも在庫が確認できます$^{(5)}$。

③: 74HC161(4bitバイナリカウンタ)の代替

 このICはTD4のレジスタ(計算する数値を保持する機構)として使用されているものです。

 74HC163が74HC161とほぼ同様に利用することが可能だと思われます$^{(3)(6)}$。秋月電子では74HC161も74HC163もDIP型の販売は無いですが、共立や樫木総業では販売されているようです$^{(7)(8)}$(2025年12月9日確認)。

 レジスタの機能を代替するには、フリップフロップ(1ビットの情報を記憶する機構)と周辺の論理回路全てを置換する必要があります。代替品を制作している事例はありますが、元のTD4とは形状がかなり変わってしまいます$^{(9)}$。

④: 74HC283(4bit全加算器)の代替

 4bitの全加算器は1bitの全加算器を4連結すれば実現できます(p.100)。1bit全加算器を作るには、2入力ORが1つ、2入力ANDが2つ、2入力XRが2つ必要です。

 これが4セット必要です。74LS32(2入力OR-4回路)が1個、74ALS08(2入力AND-4回路)が2個, 74HC86(2入力XOR-4回路)が2個で代替することができます$^{(10)}$。

 OR回路は74HC32$^{(11)}$、AND回路は74HC08$^{(12)}$も利用できます。

 問題はXORを実現する74HC86で、秋月電子では売っていません。共立、樫木総業では販売されていることを確認しています(2025年12月9日確認)$^{(13)(14)}$。

 バイナリカウンタ程ではないですが、これが手に入らないと1つのICで済んだところがICが5個必要になってしまいます。

⑤: 74HC540(NOT-8回路)の代替

 74HC540はただのNOT回路として利用しているだけなので、少量のNOT回路を複数用意すれば問題ありません$^{(15)}$。NOT-6回路の74HC04などを複数個用意しましょう。

他: 74HC153(4chマルチプレクサ)の代替

 こちらは検証例を見つけられませんでしたが、74HC153には74HC253という同等品があるようです。HレベルとLレベルに加えてハイインピーダンスという出力状態を取れる機能があるとのことです$^{(16)}$。同等品と書きましたが、74HC153と入手性は大して変わらないと思われます。74HC153を探す方が良いと思います。

IC以外の各パーツの代替品

 他に手に入りにくくなっているものとして、ROMを構成するDIPスイッチとダイオードがあります。特にダイオードは場合によっては実店舗・通販で探しまわる必要があるかもしれません。具体的には下記の代替手段が考えられるます。

元パーツ 個数 代替品 代替品の個数
ダイオード 128個 8素子ダイオードアレイ カソードコモン(ダイオード代替) 16個
DIPスイッチ 8P 16個 スライドスイッチ 128接点分
DIPスイッチ 8P 16個 ピンヘッダ2列&ジャンパーピン 128接点分

ダイオードとダイオードアレイについて

 従来のダイオードは、東芝の高速スイッチングダイオードの1S1588相当品(1S2076A)を利用せよと書籍には記述されています(p.24)。これは秋月電子の代替品があります$^{(17)}$。

 書籍内ではダイオードの代替品として、ダイオードアレイを書いています(p.132)。ダイオードだと128個必要だからです。

 しかし、今はダイオードアレイの方が手に入りにくいです。秋月電子なら"CE880"、千石電商なら"DN9-1C"が2025年12月現在で入手できる現実的な手段だと考えられます。

ROMについて

 ROMを実現する回路に関しては、様々な代替方法が考えられます。ONとOFF(HレベルとLレベル)を128個($8bit×16$)並べるだけの手段があればよいため、スライドスイッチやピンヘッダ&ジャンパーピンでも表現可能です$^{(18)}$。

 しかし、これだけの回路となるとパーツの調達も回路を組むのも大変です。このため、スイッチとダイオードでの実現を諦め、ROMを別のマイコンで実現するという荒業があります。

 この手法には別の知識が必要になるだけでなく、ロジックICよりはるかに新しい高級ICを使うということを意味します。それは作りたいものを圧倒的に上回るスペックのものをサブ装置に使うという本末転倒なやり方となってしまうため、今回の製作では使用しません。

 前述のダイオードの数と言い、かなり大変な作業であることは事実です。Arduinoなどの外部装置を利用してROMを組んでいる方は結構いらっしゃいます$^{(3)(19)(20)(21)}$。

(閑話)出所が不明な「謎TD4キット」

 「TD4 CPU キット」などで検索をかけると、AmazonやAliExpressで一式パーツとプリント基板が揃ったキットが売られていることが分かります。オペレーティングシステム「Linux」などという大嘘が書いてあったりするのであまり信頼はできませんが、勇気のある方はこちらを購入してみるというのも手かと思います。

従来の全パーツまとめ(理想)

 改めて、以下が「CPUの創りかた」が回路的に想定している理想的なパーツ一式となります。

パーツ名 個数
何かしらの基板 1~2個
電源供給用コネクタ 1個
74HC10 1個
74HC14 1個
74HC32 1個
74HC74 1個
74HC153 2個
74HC154 1個
74HC161 4個
74HC283 1個
74HC540 1個
抵抗 100Ω 2個
抵抗 1KΩ 11個
抵抗 3.3KΩ 1個
抵抗 10KΩ 9個
抵抗 33KΩ 1個
抵抗 100KΩ 4個
LED 4個
電解コンデンサ 10μF(16V) 2個
電解コンデンサ 100μF(16V) 1個
セラミックコンデンサ 0.1μF 13個
タクトスイッチ 2個
3Pトグルスイッチ 1個
DIPスイッチ 4P 1個
DIPスイッチ 8P 16個
ダイオードアレイ 16個

最終的に筆者が用意したパーツ一式(商品単位別)

 以下が今回筆者が最終的に集めたパーツです。

パーツ名 個数 購入元 料金 備考
ユニバーサル基板 2 秋月電子(秋葉原店) 1,120円 回路図による。ROMと本体を分けるため2枚とした
DCジャックDIP化キット 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 回路図による
TC74HC04AP 2 千石電商(秋葉原店) 80円 特になし
74HC10 1 共立エレショップ(通販) 121円 特になし
TC74HC32AP 1 千石電商(秋葉原店) 40円 特になし
TC74HC74AP 1 千石電商(秋葉原店) 80円 特になし
74LS138AP 2 千石電商(秋葉原店) 160円 特になし
74HC153AP(F) 2 千石電商(秋葉原店) 160円 特になし
74HC161 4 共立エレショップ(通販) 352円 特になし
74HC283 1 千石電商(秋葉原店) 240円 特になし
74HC540AP 1 千石電商(秋葉原店) 200円 特になし
ICソケット14ピン 10個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 120円 ロジックIC用。なくてもなんとかなる
ICソケット16ピン 10個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 180円
ピンヘッダオス(L型) 1x40 1 秋月電子(秋葉原店) 50円 ROMと本体の接続のため
ピンヘッダメス 1x42 1 秋月電子(秋葉原店) 80円
LED 赤 10個入り 2セット 秋月電子(秋葉原店) 160円 各通信線の状態を可視化するために大幅に増設
LED 黄 10個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 各通信線の状態を可視化するために大幅に増設
LED 黄緑 10個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 各通信線の状態を可視化するために大幅に増設
LED 青 10個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 130円 各通信線の状態を可視化するために大幅に増設
抵抗 100Ω 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 TD4回路内では2個用いる
抵抗 1KΩ 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 LEDの増設に伴って増えている
抵抗 3.3KΩ 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 クロック用 1個
抵抗 33KΩ 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 クロック用 1個
抵抗 10KΩ 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 TD4回路内では9個用いる
抵抗 100KΩ 100個入り 1セット 秋月電子(秋葉原店) 100円 TD4回路内では4個用いる
電解コンデンサ 10μF 4 秋月電子(秋葉原店) 40円 特になし
電解コンデンサ 100μF 1 秋月電子(秋葉原店) 20円 特になし
セラミックコンデンサ 0.1μF 10個入り 2セット 秋月電子(秋葉原店) 200円 IC1個に対して1個用いる
タクトスイッチ 2 秋月電子(秋葉原店) 30円 TD4回路内では2個用いる
3Pトグルスイッチ 2 秋月電子(秋葉原店) 260円 TD4回路内では2個用いる
DIPスイッチ 4P 1 秋月電子(秋葉原店) 40円 特になし
DIPスイッチ 8P 16 秋月電子(秋葉原店) 1,440円 ROM用
ダイオード 1N4148 50個入り 3セット 秋月電子(秋葉原店) 450円 ROM用
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合計 6,653円

 次回からは、実際にTD4の製作に取り組みます。

参考文献